スピードのもう一つの指標、「表定速度」が日本で最も高い列車とは
列車の所要時間短縮を実現するには、最高速度の引き上げの他に、高速で継続的に走れる環境も必要です。この目的地までの所要時間に対する速度を「表定速度」といい、距離を所要時間で除することで導き出せます。
たとえば、同じ100キロの区間を同じ停車駅、同じ停車時間で走る場合、最高時速130キロをキープして運転した場合と、10キロだけ時速130キロで走れたものの、残る90キロの区間は時速90キロで運転した場合、後者の方が所要時間が長くなります。この場合、前者は表定速度が速い列車で、後者は表定速度が遅い列車となります。最高速度はわかりやすい指標ですが、表定速度もまた、列車の速さを見ることのできる指標なのです。
この表定速度は、対象とする区間によって変動しますが、今回は各列車最速達列車の全運転区間、たとえば東京~博多間の「のぞみ」であれば、時速300キロで運転する山陽新幹線区間だけでなく、東京~博多間の全区間をもとに算出しました。なお、東京~広島間の「のぞみ」など、一部区間のみの運転となる列車がある場合は、これも比較対象としています。また、対象は定期列車のみで、臨時列車は比較対象外としています。
それでは2021年6月現在、日本で最も表定速度が高い列車は何でしょうか。それはもちろん日本最速の「はやぶさ」……ではなく、東海道・山陽新幹線の「のぞみ」でした。
表定速度が最速となる「のぞみ」64号は、東京~博多間1069.1キロ(実キロ)を4時間46分掛けて走行します。東海道新幹線では最高時速285キロですが、山陽新幹線の最高時速は300キロ。この列車の表定速度は、時速224キロ(小数点以下は切り捨て、以下同様)となります。
「のぞみ」64号が1位となる理由は、最高速度の高さに加え、東海道新幹線の上り最終列車という点にあります。日中時間帯では「こだま」など先行列車との間隔が詰まって減速を強いられることがありますが、この64号に関係する先行列車は、東海道新幹線区間においては、臨時「のぞみ」1本と、名古屋駅で接続する「こだま」1本のみ。通過駅直前で徐行する必要がないので、ほぼトップスピードを維持できるのです。
2位は、山陽・九州新幹線の新大阪~鹿児島中央間を走る「みずほ」603号。表定速度は時速220キロとなります。九州新幹線の最高速度は時速260キロですが、山陽新幹線では最高時速300キロで運転できることから、「のぞみ」に次ぐ順位に付けています。
国内最速の時速320キロで運転する「はやぶさ」は3位。新青森~東京間674.9キロを3時間5分で結ぶ速達タイプの「はやぶさ」4号の記録で、表定速度は時速219キロ。「みずほ」603号よりもわずかに低い数値となっています。
東北新幹線では、先述したとおり、東京~大宮間が時速130キロ以下、盛岡以北が時速260キロと、運転速度が制限されています。このため、国内最速の「はやぶさ」であっても、表定速度はトップの座を譲っています。
ちなみに、今回のランキングでは算定対象外ではありますが、東北新幹線において高速走行が可能な区間のみを抽出すると、大宮~盛岡間を1時間47分で走破する「はやぶさ」7・13・44と、大宮~仙台間を1時間7分で走る「はやぶさ」47号の表定速度が、時速260キロに達しています。
また、2021年のダイヤ改正においては、上野~大宮間の最高速度が時速110キロから引き上げられています。このため、「はやぶさ」4号は改正前よりも所要時間が1分短縮され、表定時速も約2キロ向上しています。この傾向は上越・北陸新幹線でも同じで、ランキングに変動は無いものの、各線とも2020年改正ダイヤより表定速度がわずかながら向上しています。