2022年、東海道・山陽新幹線「のぞみ」は、1992年3月14日の運行開始から30周年を迎えました。
国鉄分割民営化からまもない平成初期に登場し、最高時速270キロで所要時間を画期的に短縮した「のぞみ」。現在では最高時速が285キロ(東海道新幹線)〜300キロ(山陽新幹線)に引き上げられ、東海道・山陽新幹線の主役として1時間あたり最大12本が運行されています。
日本の大動脈を支える「のぞみ」の歴史をたどってみましょう。
根本から設計を見直した「スーパーひかり」用車両
現在の「のぞみ」につながる、東海道新幹線の新型車両開発計画が本格的にスタートしたのは、JRグループ発足から間もない1988年のことでした。
当時の東海道・山陽新幹線の最新型車両は100系。国鉄が「お客さま第一」をコンセプトに開発した車両で、ゆとりある座席や眺望抜群の2階建て車両が売りでした。しかし、速度性能は1964年の東海道新幹線開業時にデビューした0系と大差なく、最高時速は220キロ。東京〜新大阪間は最速でも2時間52分を要していました。
当時、東京〜大阪間では航空機とのシェア争いが激しくなっていました。飛行機は、羽田発7時の便に搭乗すれば、8時に伊丹空港に着陸し、大阪市中心部に朝9時には到着します。この飛行機に打ち勝つには、新大阪駅に8時30分頃までに到着できる列車が必要です。しかし新幹線は深夜0時から6時までは旅客列車を運行できません。ここから、最高時速270キロ、東京〜新大阪間2時間30分運転が必要とされたのです。それには車両設計を根本から見直す必要がありました。
こうして、JR東海で東海道新幹線速度向上計画、通称「スーパーひかりプロジェクト」がスタートしました。
時速270キロ運転には、数々のハードルがありました。騒音・振動が大きくなるだけでなく、軌道への負担も大きくなるからです。この問題をクリアするには、車両の大幅な軽量化が欠かせません。
そこで、新しい車両は軽量アルミニウム合金を採用。素材が軽いだけでなく、全長25mの車体を一度に成形する新技術を導入し、部品点数を減らして軽量化を図ります。
走行機器や客室装備なども徹底した軽量化が図られ、車体重量は従来の約64トン(乗客を乗せた状態での重量)から約45トンへ、実に30%もの軽量化に成功しました。屋根の上にあった空調・換気機器を床下に移し、車高と重心を低くして安定性を高める工夫も採用されました。
もうひとつ、大きなポイントが空力特性です。
実は、新幹線の高速化自体にはそれほど空力性能は必要ありません。JR東海発足当時の主力であった100系の先頭形状でも、時速270キロ運転は可能です。しかし、新幹線は騒音を75デシベル以下に抑えるという環境基準をクリアしなくてはなりません。特に、高速でトンネルに突入した時に発生する「トンネル微気圧波」と呼ばれる爆発的な騒音が問題でした。
これを抑えるには速度を落とせばよいのですが、トンネルのたびに速度を落とすわけにはいきません。車両先端から、車体の断面積がだんだん大きくなる形状とすれば、ゆっくりトンネルに入るのと同じ効果が得られます。そこで、車両先端から運転席の上まで滑らかな曲線で構成しました。