スピードのもう一つの指標、「表定速度」が日本で最も高い列車とは
高速列車において所要時間は重要なアピールポイントですが、これを短縮するためには、最高速度を引き上げるほか、高速で継続的に走れる環境づくりも必要です。たとえば、100キロの区間のうち10キロで時速300キロ運転が可能だとしても、残り90キロを時速120キロで走行しては、高速走行する意味が薄れます。それよりも、全区間を時速270キロで運転できた方が、より所要時間は短くなります。
このような、目的地までの所要時間に対する速度を「表定速度」といい、距離を所要時間で除することで導き出せます。先の例の場合は、前者は表定速度が遅い列車で、後者は表定速度が速い列車となります。最高速度はわかりやすい指標ですが、表定速度もまた、列車の速さを見ることのできる指標なのです。
この表定速度は、対象とする区間によって変動しますが、今回は各列車のうち最速達列車の全運転区間、たとえば東京~博多間の「のぞみ」であれば、時速300キロで運転する山陽新幹線区間だけでなく、東京~博多間の全区間をもとに算出しました。なお、東京~広島間の「のぞみ」など、一部区間のみの運転となる列車がある場合は、これも比較対象としています。
また、比較対象は列車名単位とし、号数による違いは考慮していません。対象は毎日運転の定期列車のみで、平日のみ運転の列車や、繁忙期に運転される臨時列車は、比較対象外としています。
それでは2022年3月改正のダイヤにおいて、日本で最も表定速度が高い列車は何でしょうか。それは意外にも、最高速度では国内2位の東海道・山陽新幹線「のぞみ」でした。
表定速度が最速となる「のぞみ」64号は、東京~博多間1069.1キロ(実キロ)を4時間46分掛けて走行します。東海道新幹線では最高時速285キロですが、山陽新幹線の最高時速は300キロ。この列車の表定速度は、時速224キロ(小数点以下は四捨五入、以下同様)となります。
「のぞみ」64号が1位となる理由は、最高速度の高さはもちろんですが、停車駅の少なさと、東海道新幹線の上り最終列車という点にあります。日中時間帯では前を走る「こだま」との間隔が詰まって速度を落とす場面もありますが、この64号に関係する先行列車は、東海道新幹線区間では名古屋駅で接続する「こだま」1本のみ。通過駅直前で徐行する必要がないので、ほぼトップスピードを維持できるのです。
2位は、山陽・九州新幹線の新大阪~鹿児島中央間を走る「みずほ」603号。表定速度は時速220キロとなります。九州新幹線の最高速度は時速260キロですが、山陽新幹線では最高時速300キロで運転できることから、「のぞみ」に次ぐ順位に付けています。
国内最速を誇る「はやぶさ」は3位。新青森~東京間674.9キロを3時間5分で結ぶ速達タイプの「はやぶさ」4号の記録で、表定速度は時速219キロです。時速320キロで走れない区間の影響で、最高速度に劣る「みずほ」603号より、わずかに低い数値となっています。
ちなみに、本ランキングでは算定対象外ですが、東北新幹線において高速走行が可能な区間のみを抽出すると、仙台発東京行きの「はやぶさ」2号が、大宮~仙台間を1時間6分で走行。表定速度は時速267キロとなっています。また、「はやぶさ」の全運転区間である東京~新函館北斗間を算出すると、7・13・44号の3本が同区間を3時間57分で走破し、表定速度は時速209キロに。さらに、この3本を東北新幹線区間のみ計算すると、今回ランキング1位の「のぞみ」64号より上位となる、時速227キロに達します。
今年のランキングでは、東京~越後湯沢間で併結していた「Maxとき」「Maxたにがわ」が消滅した結果、「たにがわ」(廃止された「Maxたにがわ」を含む)の順位が変動。九州新幹線のダイヤ改正によって、「つばめ」も最速達列車が304号から336号へと変わっています。
9月23日に開業する西九州新幹線の時刻も算出してみましょう。西九州新幹線最速となるのは、武雄温泉~長崎間を23分で結ぶ「かもめ」16・17号。表定速度は時速172キロとなり、「はくたか」や「はやて」の最速列車よりも上位となります。なお、武雄温泉駅で乗り継ぐ場合、博多~長崎間で最速となるのは「かもめ」「リレーかもめ」16号の1時間20分ですが、こちらで算出した場合には、やはり在来線区間を含むこともあり、全体の表定速度は111キロとなります。