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普通列車に抜かれる特急、WEST EXPRESS 銀河の紀南コースでゆらり旅

2022年12月24日(土) 鉄道コムスタッフ 西中悠基

旅行のあり方が多様化しつつある昨今、鉄道業界でも、ただ走らせるだけでなく、列車に乗ること自体を目的とした、乗って楽しむ列車が増えています。

特に、JR九州の「ななつ星in九州」を皮切りに登場したクルーズトレインは、JR東日本の「TRAIN SUITE 四季島」、そしてJR西日本の「TWILIGHT EXPRESS 瑞風」と、JRだけでも3つの列車が。いずれも富裕層に人気のある列車です。とはいえ、1乗車に数十万~百数十万円するこれらの列車は、一般庶民には高嶺の花です。

それに対する、リーズナブルながら道中を楽しめる観光列車も、今は数多く運転されています。たとえば、JR九州では九州各地を巡る「36ぷらす3」、JR東日本では車内で日本酒が楽しめる「越乃Shu*Kura」といった、ユニークな列車を運転。そしてJR西日本では、他の会社にはない、夜行列車にも使える観光列車が走っています。「WEST EXPRESS 銀河」です。

WEST EXPRESS 銀河
WEST EXPRESS 銀河

WEST EXPRESS 銀河は、2020年9月にデビューした列車。昼行と夜行の双方で走る、同社の「新たな長距離列車」として、京阪神を起点に、山陽方面や山陰方面、紀南方面へ、シーズンごとに行先を変えて運転されています。西日本のさまざまな地域を巡るこの列車は、2022年10月から2023年3月にかけては「紀南コース」として、紀伊半島西側を巡る旅に出ています。

デビュー3年目とはいえ、まだまだ新しいWEST EXPRESS 銀河。その紀南コースの旅の模様をご紹介します。

WEST EXPRESS 銀河の車内は?

まずは、WEST EXPRESS 銀河の車両についてご紹介しましょう。

この車両は、かつて京阪神の「新快速」で活躍した117系を改造したもの。形こそ改造前の面影を残していますが、デザイナーの川西康之さんの手によって、デザインは内外とも大幅に手を加えられました。

見た目はとても美しいWEST EXPRESS 銀河。実は「新快速」で活躍した車両の改造車です
見た目はとても美しいWEST EXPRESS 銀河。実は「新快速」で活躍した車両の改造車です

車両は6両編成。グリーン個室や一般的なリクライニングシートなど、さまざまな種類の座席が用意されています。

編成内で最上位となるグリーン個室「プレミアルーム」は、編成端の6号車に設置。5部屋が用意されており、うち1室は1人用、残りの4室は複数人用です。座席は、昼間は窓側を向いたソファーシートとして利用できますが、背もたれを倒すことで、夜にはベッドに変身します。

6号車のグリーン個室「プレミアルーム」
6号車のグリーン個室「プレミアルーム」
ソファーの背もたれを倒すと、夜行列車で使えるベッドになります
ソファーの背もたれを倒すと、夜行列車で使えるベッドになります

ボックスシートの「ファーストシート」は、こちらもグリーン車扱い。「プレミアルーム」とは反対側の先頭車となる1号車に設置されています。昼間は2人用の対面座席として利用できますが、こちらも背もたれを倒してベッドとすることができます。昔の車両で例えると、寝台特急電車の583系のようなイメージです。なお、定員上は1ボックスあたり2人ですが、基本的には相席とならないように配慮しているとのことです。

1号車の「ファーストシート」。昼間は2人用のボックス席です
1号車の「ファーストシート」。昼間は2人用のボックス席です
こちらも背もたれを倒せば1人用のベッドに
こちらも背もたれを倒せば1人用のベッドに

夜行列車らしい設備「クシェット」は、2号車と5号車に設置。設備はベッドそのものですが、料金上は普通車指定席(ノビノビ座席)となっており、「プレミアルーム」や「ファーストシート」よりもリーズナブルなのが売りです。一部を除いて1つの区画に2段ベッド2組が向かい合わせに配置されており、かつてのブルートレインのような雰囲気が味わえます。

2・5号車の「クシェット」。見た目はベッドですが、料金上は普通車指定席です
2・5号車の「クシェット」。見た目はベッドですが、料金上は普通車指定席です

ほかにも、3号車には「ファミリーキャビン」が用意されています。その名の通りファミリー利用を想定した半個室で、夜行列車ではカーペットを広げることでベッドとして利用できます。

3号車の「ファミリーキャビン」。ファミリー向けの座席です
3号車の「ファミリーキャビン」。ファミリー向けの座席です

最もオーソドックスなリクライニングシートは、2号車と3号車に設置。座席自体は一般的な特急列車のものに近いのですが、座席間隔は1200ミリとグリーン車並み。テーブルも大きく、弁当を食べる際にも苦労することはなさそうです。

2・3号車のリクライニングシート。居住性は通常の特急のグリーン車並みです
2・3号車のリクライニングシート。居住性は通常の特急のグリーン車並みです

3号車と4号車には、フリースペースが設けられています。4号車は車両全体がフリースペースで、愛称は「遊星」。自分の座席から離れたくつろぎの場としての利用はもちろん、特産品PRといったイベントで使用されることもあります。

4号車のフリースペース「遊星」
4号車のフリースペース「遊星」
「遊星」のボックスシート
「遊星」のボックスシート

3号車のものは4号車よりは小ぶりで、こちらは「明星」の愛称が付けられています。他にも、1号車のドア付近や、6号車先端の「彗星」など、車内にはさまざまな場所にフリースペースが設けられています。

3号車のフリースペース「明星」
3号車のフリースペース「明星」
1号車ドア付近のフリースペース。グリーン車利用者専用です
1号車ドア付近のフリースペース。グリーン車利用者専用です

余談ですが、これらのフリースペースの愛称は、4号車「遊星」を除くと、すべて過去に運転されていたブルートレインの愛称と同じもの。車内には他にも、新型コロナウイルス感染拡大防止のためにソーシャルディスタンスの確保を呼び掛けるロゴがありますが、このデザインがブルートレイン「瀬戸」のヘッドマークがモチーフとなっているなど、かつてのブルートレインをイメージした要素があちこちに見られます。

ソーシャルディスタンスの確保を呼び掛けるためのロゴ。ブルートレイン「瀬戸」のヘッドマークがモチーフです
ソーシャルディスタンスの確保を呼び掛けるためのロゴ。ブルートレイン「瀬戸」のヘッドマークがモチーフです

ここまでにご紹介した座席設備のほか、各座席には電源コンセントが設置されていたり、2号車には女性用更衣室が用意されていたりと、夜行列車も想定した車両は至れり尽くせり。夜行利用ではシャワーが無いのは残念ですが、それ以外ではリーズナブルながら快適な旅が楽しめる設備となっています。

なお、紀南方面での運行が2年目となる今回は、前回の反省点を活かして、海が見えやすいよう工夫されました。

WEST EXPRESS 銀河はもともと、山陽本線での運行時に海が見えやすいような座席配置となっていましたが、そのまま運行すると紀勢本線では逆向きとなってしまい、特に「クシェット」の場合には、全てのコンパートメントが海と反対側になっていました。今回は、紀南コースでの運転を前に、編成の向きを転換。海側の座席を30席から71席(いずれも昼行運転時)に増やしました。

 

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