スピードのもう一つの指標、「表定速度」が日本で最も高い列車とは
新幹線や特急列車にとって、最高速度はスピードアップの面で重要なポイントの一つです。しかし、所要時間を短縮するためには、ただ単に最高速度を上げるだけでなく、速いスピードを長い間維持できる環境づくりも必要です。たとえば、極端な話ですが、100キロの区間のうち10キロで時速300キロ運転が可能だとしても、残り90キロをわざと時速120キロで走行した場合は、高速走行する意味が薄れます。それよりも、全区間を時速270キロで運転できた方が、より所要時間は短くなります。
この表定速度は、対象とする区間によって変動しますが、今回は各列車のうち最速達列車の全運転区間、たとえば東京~博多間の「のぞみ」であれば、時速300キロで運転する山陽新幹線区間だけでなく、東京~博多間の全区間をもとに算出しました。なお、東京~広島間の「のぞみ」など、一部区間のみの運転となる列車がある場合は、これも比較対象としています。
また、比較対象は列車名単位とし、号数による違いは考慮していません。対象は毎日運転の定期列車のみで、平日のみ運転の列車や、繁忙期に運転される臨時列車は、比較対象外としています。
それでは2024年3月改正のダイヤにおいて、日本で最も表定速度が高い定期列車は何でしょうか。それは、最高速度が日本で最も速い列車と同じ、東北新幹線の「はやぶさ」でした。
表定速度が最速となる「はやぶさ」6号は、盛岡~東京間を2時間10分で走破しています。この列車の表定速度は、時速229キロ(小数点以下は四捨五入、以下同様)。東北新幹線の最速達種別である「はやぶさ」ですが、特にこの4号は、最高速度が抑えられる盛岡駅以北を走らないこと、盛岡駅での「こまち」の連結時間が「はやぶさ」の所要時間に含まれないこと、上野駅を通過することの3点が、表定速度が上がる理由となっているようです。ちなみに、4月以降の表定速度はこの時速229キロですが、3月中は盛岡駅の発車時刻が1分遅くなっており(東京駅の着時刻は変更なし)、2023年度中は表定速度が時速231キロとなっていました。
なお、2020年よりご紹介してきた、鉄道コムの表定速度ランキングでは、「はやぶさ」は3位としていました。対象となっていたのは、新青森~東京間674.9キロ(実キロ、以下新幹線は実キロ、在来線は営業キロを使用)を3時間5分で結ぶ「はやぶさ」4号で、表定速度が時速219キロというもの。それより前、2019年以前にも6号のダイヤ自体は設定があったのですが、コロナ禍での利用客減少を受けて、2020年以降は繁忙期運転の臨時列車という扱いに。2023年改正ダイヤでは毎日運転の臨時列車という扱いに昇格していましたが、鉄道コムの本ランキングにおいては、他の繁忙期運転の臨時列車も毎日運転の臨時列車も区別なく、臨時列車はすべて対象外としていました。本年のランキングにおいて、ついに「王者奪還」となりました。
「はやぶさ」に次ぐ表定速度第2位の列車は、東海道・山陽新幹線の「のぞみ」。最も所要時間が短い64号は、東京~博多間1069.1キロを4時間45分掛けて走行し、表定速度は時速225キロとなります。64号は、停車駅が少ないことに加え、東海道新幹線の上り(定期)最終列車という点が、表定速度が高くなる理由。日中時間帯では、「のぞみ」は前を走る「こだま」との間隔が詰まって速度を落とす場面もありますが、この64号に関係する先行列車は、東海道新幹線区間では名古屋駅で接続する「こだま」1本のみ。通過駅直前で徐行する必要がないので、ほぼトップスピードを維持できるのです。
なお、「のぞみ」64号は、2024年3月ダイヤ改正において、博多駅の発車時間が1分繰り下げられ、所要時間も1分短縮されています。そのため、表定速度も以前の時速224キロからわずからながら向上。「はやぶさ」4号には及ばないものの、こちらもダイヤ改正でスピードアップしています。
また、今回は定期列車のみをピックアップ対象としていますが、「のぞみ」の臨時列車では、「はやぶさ」4号以上に表定速度が高い列車も存在します。新横浜駅始発の「のぞみ」497号で、新横浜~新大阪間の489.9キロを2時間3分で走破。表定速度は時速239キロに達します。64号同様に先行列車がほぼ存在しないことに加え、走行速度が抑えられる東京~新横浜間を走らないこと、停車駅数が少なく表定速度ではロスとなる駅停車のための加減速が少ないことが、64号以上の速さを実現できた理由と考えられます。なお、同列車は2024年3月のダイヤ改正において、一部の日に博多行きの97号として運転するようにもなりましたが、その場合は表定速度は時速226キロに落ちてしまいます。
山陽・九州新幹線を走る「みずほ」は、新大阪~熊本間を走る615号の表定速度が時速220キロとなり、「のぞみ」に次ぐ3位にランクイン。九州新幹線の最高速度は時速260キロですが、山陽新幹線では最高時速300キロで運転できることから、高い数値となりました。なお、615号は一部の日に臨時列車扱いで新大阪~鹿児島中央間の運転となることがありますが、その場合の表定速度は時速219キロと、わずからながら数値が落ちる結果に。また、臨時列車を除く新大阪~鹿児島中央間走破列車で最も表定速度が高い列車は、上り列車の「みずほ」610号の数値、時速218キロとなります。
2024年3月16日に金沢~敦賀間が延伸開業した、北陸新幹線についても見ていきましょう。北陸新幹線東側の最速達種別である「かがやき」は、現在のダイヤでは金沢~東京間の500号、東京~敦賀間の503号が最速。前者は454.1キロを2時間27分で、後者は579.2キロを3時間8分で走破し、表定速度はともに時速185キロ(ただし小数点単位では500号の方が上)となります。改正前のダイヤでは、東京~金沢間を2時間25分で走破する509号が最速で、表定速度は時速188キロでした。しかし、延伸開業時のダイヤ改正で敦賀駅行きとなった同列車は、金沢~敦賀間で停車駅が多いため、「かがやき」における表定速度トップの座からは降りてしまいました。
一方で、敦賀駅で在来線特急「サンダーバード」「しらさぎ」と接続する「つるぎ」は、今回の延伸でランキングに大きな変動が生まれました。それまでは富山~金沢間の各駅停車シャトルだった「つるぎ」ですが、延伸以降は金沢~敦賀間で一部が通過運転する列車に。特に、金沢~敦賀間の運転で、途中停車駅は福井駅のみという「つるぎ」32号は、金沢~敦賀間125.1キロを41分で走破。表定速度は時速183キロとなり、延伸開業前の時速160キロから大幅に向上しています。
また、2024年度は、繁忙期における北海道新幹線青函トンネル区間の最高速度が、時速260キロとなりました。2023年度までは最高時速210キロ止まりだったのですが、今回のスピードアップで、所要時間は以前より最大2分短縮(通常ダイヤよりは5分短縮)。期間中に東京~新函館北斗間823.7キロを走る「はやぶさ」7号を例に挙げると、同区間を3時間52分で走破し、表定速度は時速213キロに。時速211キロだった以前よりも、わずかながら速くなっています。
青函トンネルは、新幹線と在来線が同じ空間を共用しています。仮に新幹線が高速で在来線貨物列車とすれ違うと、貨物列車のコンテナに影響を与えることが懸念されており、普段の新幹線は新在共用区間では最高時速140キロで運転されています。しかし、貨物列車の大部分が運休となるゴールデンウィーク、お盆、年末年始の各繁忙期には、新幹線が影響を与えてしまう対象が減ることから、スピードアップが可能となっています。
繁忙期のスピードアップは、2021年の正月に時速210キロで開始。そして今回、時速260キロ運転が実現したことで、青函トンネル内でも新幹線の本領発揮を迎えることとなりました。ただし、在来線と線路を共用する約82キロ区間において、時速260キロ運転が可能なのは、青函トンネル内約54キロの区間のみ。その前後の約28キロについては、引き続き時速140キロが最高速度となっています。
このほか、「つばさ」の新型車両E8系がデビューした影響もありました。従来の「つばさ」用車両であるE3系は、東北新幹線では最高時速275キロ、福島~新庄間は最高時速130キロで運転されています。E8系は、福島駅以北の最高速度は変わりませんが、東北新幹線では最高時速300キロで運転。E3系よりスピードアップを実現しました。これにより、「つばさ」最速列車の124号は、山形~東京間を2時間23分で走破。所要時間は従来より4分短くなっており、表定速度は従来の時速140キロから時速144キロに変わっています。
E8系デビューは、「つばさ」と連結する「やまびこ」の表定速度にも影響を与えています。「やまびこ」の最速列車は、東京~仙台間を1時間46分で走破する131号。東京~福島間では「つばさ」131号と連結していますが、今回連結相手がE8系限定となったことで、最高時速300キロでの運転となりました。全区間の所要時間は改正前より3分短縮しており、表定速度は時速179キロから時速184キロに変化しました。