東海道・山陽新幹線を走る「ドクターイエロー」。白地に青帯の他の車両と異なり、黄色の目立つ塗装が特徴的で、走る日が公表されていないことから、見られると幸せが訪れる「幸せの新幹線」とも呼ばれています。
ドクターイエローは、走行しながら線路(軌道)や周辺の電気・信号設備の状態を検査する、特別な車両です。その役目から「新幹線のお医者さん」と例えられており、「のぞみ」をはじめとする各列車が高速・高頻度で走る新幹線の安全を保つために欠かせない存在となっています。
そんな重要な役目を持つドクターイエローですが、老朽化によって2027年までに検測業務を終了することが発表されています。現在、東海道・山陽新幹線のドクターイエローは、JR東海が所有するT4編成、JR西日本が所有するT5編成の2本が在籍。このうち、T4編成は2025年1月に引退する予定で、T5編成も2027年までに現在の役割を終える計画です。JR東海では代替として、検測機器を営業用車両のN700Sに搭載する方針です。
さて、東海道・山陽新幹線の安全・安定輸送に欠かせないドクターイエローですが、同じような役目を持った車両は、他の路線にも存在しています。そんなドクターイエロー以外の「お医者さん」たちをご紹介しましょう。
JR東日本版ドクターイエローの「East i」
JR東日本の新幹線では、当初は国鉄から引き継いだドクターイエロー(925形)を使用していました。帯色は東北新幹線用の200系と同様に緑色で、東海道・山陽新幹線用の車両とは印象が異なっていました。
ドクターイエローが老朽化した際、JR東日本が導入したのが、E926形「East i」(イーストアイ)。黄色の車体が特徴のドクターイエローとは大きく異なり、白地に赤色という塗装の車両です。
2001年に登場したEast iは、秋田新幹線「こまち」で当時使われていたE3系をベースとした車両。新幹線区間や、山形・秋田新幹線の在来線区間の走行に対応するほか、急勾配や60ヘルツ区間の走行に対応する性能を持ち、JR東日本の新幹線全区間に加え、北陸新幹線のJR西日本区間、北海道新幹線の入線にも対応しています。また、「こまち」「つばさ」のように他編成と連結する必要はないため、両列車用車両のような先頭部の常用連結器は非搭載となっています。
在来線版ドクターイエロー「ドクター東海」
新幹線だけでなく、在来線でもドクターイエローのような車両は必要です。
JR東海が保有している、在来線版ドクターイエローと呼べる車両が、キヤ95系。1997年に登場しました。ドクターイエローからの連想からか、「ドクター東海」の愛称があります。
ドクター東海は、日本の在来線車両としては初めて、軌道と電気設備の双方を走りながら検査できる車両として登場しました。国鉄時代にも、軌道を検査する車両、電気・信号設備を検査する車両はそれぞれ存在していましたが、双方の機能を併せ持った車両は、このドクター東海が初めてでした。
この車両は、2025年現在は3両編成2本が存在し、JR東海の在来線各線のほか、愛知環状鉄道線やあおなみ線などで、定期的に検測を実施しています。
JR東日本の兄弟車「East i-E」&「East i-D」
ドクターイエローの在来線版があれば、East iの在来線版も存在します。JR東日本では、在来線の検測車両として、E491系「East i-E」とキヤE193系「East i-D」を保有しています。
East i-EとEast i-Dは、見た目は同じ兄弟車。前者は電車、後者はディーゼル車で、East i-Dは非電化区間の走行も可能です。JR東日本管内の在来線各線(レール幅が異なる一部区間を除く)のほか、しなの鉄道や真岡鐵道など、JR東日本の路線とレールが繋がっている一部私鉄路線で検測を実施しています。
JR西日本が保有する2つの在来線検測車
新幹線ではJR東海と共通のドクターイエローを保有しているJR西日本ですが、在来線では独自の車両を使用しています。
最初に導入したのは、2006年製のキヤ141系。「ドクターWEST」の愛称を持つ、軌道や信号設備の検査車両です。非電化路線を走れるようにディーゼル車となっており、2両編成2本が存在しています。
2021年に登場した車両が、DEC741。架線などの電気設備を検査するための車両で、屋根上には大量のカメラが設置されていることが特徴です。こちらも非電化区間の走行に対応した車両ですが、従来のディーゼル車ではなく、ディーゼルエンジンで発電した電気でモーターを回し走る「電気式気動車」となっています。形式名のDEC(デック)は電気式気動車であることを表したもので、Diesel Electric Carの略となっています。ちなみに、DEC741には、現時点で愛称はつけられていません。
キヤ141系とDEC741は、JR西日本の各線のほか、自前の検測車両を持たないJR四国、同じく自前の電気設備検測車両を持たないJR九州、その他の私鉄各社などで、検測する姿が見られます。
将来は「総合検測車」に? JR北海道のマヤ35形
本州のJR3社と異なるタイプの車両を導入しているのが、JR北海道です。同社の検測車両「マヤ35形」は、ドクター東海などのように自走できる車両ではなく、他の車両にけん引される必要がある車両。道内ではキハ40形、海峡線ではJR貨物のEH800形電気機関車にけん引されて走行します。
マヤ35形は、軌道の状態を検測するための車両。JR東日本のEast i-Eの中間車をベースに設計されました。将来的には両端につなぐ電気設備の検測車を製造し、East i-EまたはEast i-Dのような電気・軌道総合検測車とする構想があるようですが、現時点で具体的な動きの発表はありません。
旅客車両から生まれ変わったJR九州「BIG EYE」
JR北海道のマヤ35形とは方向性が異なりますが、JRの検測車の中で同様に異彩を放っているのが、JR九州のBE220形「BIG EYE」です。
BIG EYEは、一般型気動車のキハ200系を改造した車両。軌道や建築限界(線路周辺の構造物が支障していないかの基準)の測定装置を搭載しています。
このBIG EYEに改造された車両は、元はキハ200系の単行仕様車、キハ220形として製造されました。2004年の九州新幹線部分開業にあわせて指宿枕崎線で特別快速「なのはなDX」の運転が開始された際、この車両は同列車の指定席用車両として改造。2011年に「指宿のたまて箱」の運転開始に代わり「なのはなDX」が廃止されると、同車は熊本地区に転属し、普通列車で活躍していました。そして2020年の人吉地区豪雨災害で被災。復旧に際し、検測車両に改造されるという、紆余曲折をたどったのです。